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「丁寧に育てすぎたのは失敗だった」と母に言われた。
そりゃないだろう、と思ったけれど、特に反論も思いつかなかったのでそうかもね、とだけ返事をして電話を切った。
母の望む子になれなかったのは今でも心が痛いけど、そもそもどんな娘に育てたかったんだろう。理想像があるのなら聞いてみたい。
親は選べないけど子も選べないし、お互い交通事故みたいなものなので、なんとか穏やかにやるしかない。道徳の授業で何回も読まされた「感動の親子の絆」みたいなものを少し信じていたけど、あれは物語だから美しいんだろう。
道徳の本には載らないだろうけど、父がしてくれた無茶苦茶な絵本の読み聞かせはかなり楽しかったし。
母に電話口で言われたことを思い出しながら夕食を作る。
根菜を炊いて醤油で味付け、今日は寒いので生姜を入れて片栗粉であんかけに。
卵焼きを厚く巻く。
無意識に料理をすると自然と母の味に近くなる。
これだって文化の継承と呼ぶなら、そんなに悪くないかもしれない。